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食品交換表の誕生 1963年に始まった現代の糖尿病食


今年は2013年です。

日本における糖尿病治療において画期的な出来事が、ちょうど半世紀前の1963年に起こっています。

ここは清水クリニックの院長ブログの記載を抜粋、引用させていただきます。

(勝手な掲載で申し訳ありません。)

***
1960年頃から日本各地で食品交換表の原型のようなものが試み出されました。
済生会中央病院堀内先生、東北大後藤先生は米国方式、岡山大山吹先生は独自の方法だったそうです。
そして統一した食品交換表を作ろうとする機運が高まり、1963年に作成委員会が開かれました。

  食品交換表作成委員会(第1回:1963年9月9日)
   4群6表+付録の分類(主にどの栄養素を供給するかで食品を分類)
   1単位80kcal、基礎食(1200kcal)の設定
  食品交換表初版発刊(1965年9月10日、200円)

発表当時は、日本人の平均食餌より蛋白質・脂肪が多く贅沢食と言われたそうです。
 1800kcalの食餌で、蛋白83g、脂質53gを含んでいました。
 当時の健常者は平均2184kcal 摂取していましたが、蛋白71g、脂質36gに過ぎませんでした。

生活習慣病ガイド 清水クリニック 院長ブログ 我が国の糖尿病食餌療法の歴史(1)-(3)
http://www.shimizu-clinic.biz/blog/index_2.html
***


そうなんです、糖尿病患者さんを食生活の悩みから救う(と言いながら混乱に陥れているのではないかと私は思っていますが)、食品交換表が初めて日本で作成されたのですね。

アメリカでは1950年に作成され、活用されていたので、それに倣ってのことでした。

上の記事に記載されている具体的な数値を読んで、解釈してみましょう。


平均的な日本人の食生活よりは低糖質になっていたものの、タンパク質332kcal、脂質477kcal、糖質991kcalという、糖質率55%の食事が提唱されるのです。

(1963年当時、平均的な日本人では、タンパク質284kcal、脂質324kcal、糖質1576kcalという、糖質率72%の食事内容でした。)

影浦式や山川式の30~40%の糖質制限食がいつの間にか55%の高糖質食に変わっているのです!!


これはおそらく、当時、一般的な食事では70%以上のカロリーを炭水化物から摂取するのが当たり前であるという、日本人の貧しい経済状況に合わせての譲歩だったのではないかと思われます。

「一日に四合の玄米と味噌と少しの野菜を食べ・・・」

などという食生活が慎ましやかで望ましい庶民の食生活であるとする状況で、米の量を半分にして、残りを肉と野菜で補え、なんてことは言いにくかったでしょうからね。


以下は、1980年の糖尿病食に関する記載です、栄養構成はそれほどまでに重要ではなくて、カロリー制限が最も重要であるという概念になっています。

***
現在,日本糖尿病学会は糖尿病食事療法の基本方針を糖尿病治療の手びき1)および食品交換表2)の中で次のように表現している。
1) 摂取カロリーの制限ないし適正化
2) 総摂取カロリー中での各栄養素の適正な補給
3) 鉱質およびビタミンの補給
である。この方針は,わが国ではほとんどすべての医師により採用され,総カロリー量の決定およびその各栄養素への配分方針は各医師の判断に委ねられているが,条件なしにカロリー制限を第1とするきわめて明確な方針といえる。
この総カロリー主義ともいえる方針は,近代的な糖尿病食事療法の行なわれている国では等しく採用されているが,その意味は国,著者によりかなり異なるように見える。
(糖尿病食事療法の基礎 中川昌一 栄養と食糧 Vol.34 No.1 1981)
***


カロリー制限至上主義と、食事で制御できない問題はインスリンでコントロールすればいいという考え方、そして平均的な日本人の食生活への配慮(贅沢病と言って患者が批判されるのを避けるため)。

これらの要素が、1960年代初めに糖質量55%という日本独自の糖質比率を生み出し、現在にまで至っているものと思われます。

この同じ文献に、同じ時代のドイツの糖尿病食と日本の糖尿病食の栄養比率が記載されていたのでここに掲載します。


ドイツでの糖質比率1969年.png

ドイツの糖尿病食の栄養比率では、糖質摂取量は36%となり、マイルドな糖質制限食であることが明白です。

それに対して、日本はどうでしょう、


日本での糖質比率1980年.png

みごとに高糖質食の設定ですね。


中川先生が上に書かれているとおりに、この時点で、PFCバランスは各国で、研究者でバラバラです。

「自由食」という概念が出るほど、「糖尿病はインスリン打てばいいんだから」という安心感が医療者のあいだに万延していたのが理由の一つではないかと思われます。

日本では「米による食糧自給」が重要な政策の柱であったこともあり、米飯崇拝に抗いながら糖質摂取量を減らすのは55%が限界だったのかもしれませんね。


アンラッキーだったのは高糖質食を後押しするように世界の風潮が変わってしまったことです。

元凶ともいえるのが1977年のマクガバンレポートであったり、1980年代前半のコレステロール摂取量低下政策であったことも記しておくべきでしょう。

日本人に生活習慣病が少ない理由を「高糖質、低脂肪食を食べているからだ」と勘違いして、アメリカの肥満人口を3倍に押し上げてしまったあの政策です。


中川先生のこのレポートは1980年のものですが、世界中が間違った方向へと転げていくのを「ようやく世界が日本食に追いついたか」という感じで見られている印象を受けました。

1980年の糖尿病食に対する世界の考え方です。

***
すでに述べたごとく,高糖質は日本の食習慣に合致したため,いち早く普及したが,欧米においてむしろ,高脂質食による高コレステロール血症の反省より方針の変更が行なわれたという歴史的背景の差がある。
すなわち高コレステロール血症が動脈硬化のリスク・ファクターとなり,糖尿病と共存するとさらに加速されることが種々の疫学調査で明らかとなり,冠動脈疾患が糖尿病患者死因の一位を占める欧米ではわが国におけるよりも重大な問題となり,方針の変更が行なわれたものである。
この事実は,前述の日系ハワイ人調査13)でも明らかで,ハワイ日系人は広島在住者に比して糖尿病患者が多いばかりでなく,糖尿病患者は高コレステロール血症,高血圧の合併者が多く,心電図有病率に差はないが臨床的症状を呈する虚血性冠疾患は多く,明らかに欧米型であり,欧米型の現象は人種差によるものではない。
このような歴史的背景より,米国糖尿病学会の指導方針は,かっての高脂肪食より,高糖質食というよりは比較的低脂肪食へ転換し,1961年のADAの指導書18)の記述では,栄養素配分は通常の健康者と同様であるとして高脂肪食を廃止し,1971年のADAの勧告19)では糖質の制限除去,脂質制限を明記し,同じく1971年のJoslinの教科書では6),寡糖類の制限により脂肪比率の上昇は認めているが,1979年のADA勧告では20),再び通常と同様の食品構成で特殊の食品を要しないとし,たん白質12~20%,糖質50~60%,脂肪20%とし,さらに脂肪はポリ不飽和脂肪酸10%,飽和脂肪酸10%以下,コレステロール含有食品の制限等,高コレステロール対策を明確化している。
糖尿病治療の目的の一つはMacroangiopathyの増加防止にあり,これに対し糖尿病のコントロールは完全予防とはならないが,リスク・ファクターを少なくすることは非糖尿病者以上に重要で,この対策上米国では高糖質食となったものである。
***
(この中でハワイに移住した日系人の調査、あるいは低糖質食と高糖質食の及ぼす影響の比較について、いくつか気になることがあるのでまた別記事で触れてみたいと思います。実は見逃されていた非常に重要な問題かもしれません。)


結論、日本における高糖質食による糖尿病食事療法を推進したきっかけは1963年に作製された食品交換表です。

そのときにそれほどの科学的根拠はなかったのだけれども、1970年代の欧米の研究が日本のそれを後押ししてしまった、ということがあります。


間違いはあの時生まれた♪ 私は我慢できない♪

⇒参考サイト http://youtu.be/YyEQYOHZhxs

(・_・)ノ☆(*__)


この記事は別の記事、「世界と日本における糖尿病食事療法の変遷」の後編です。

長すぎたので分割しました。



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2013年1月20日 14:15

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コメント(2)

こうやって見ていくとかつての日本と今の先進諸国との生活習慣の差がやはり大きいのでしょうね。かつての農家は歩いて移動ですし機械もありません。夜が明けたら仕事始めで朝八時に帰宅して朝食ですから今の朝八時から仕事のわれわれからすると昼食に近いですね。こういう差異を見落とした点が現在の糖尿病治療に深刻な影響を与えているんでしょう。

それと思い出すのは昔の家が凄く寒かったことですね。風呂場なんぞタイル張りで冬場は拷問かと思ってました。でも氷河期を生き抜いてきた子孫なわけですからたぶんそっちのほうがいいんでしょうね。脂質中心食だと寒暖に強くなるみたいな研究も面白そうですね、皮膚や粘膜、血管への好影響はよく耳にしますし。

面白いサイトがありました。
http://www.yakugai.gr.jp/inve/fileview.php?id=52
③「欧米よりも頻度が少ないからと言って、厳重な予防医学を行うのは無駄であるというような考えは極めて危険な考えです」
、④「コレステロール低下剤は極めて副作用の頻度の少ない薬剤である」
そ、そうか・・・
ぜひ、全国の医科大入試でこの文章を使った問題を出して欲しいですね。

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carpincho3

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